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知る人ぞ知る神奈川県の名産品をたどる「おいしいかながわ探検隊」。今回は学生が記者になって「海」のイメージが強い湘南・平塚で「牛乳」をテーマに探検します。愛情を注いで牛を育て、おいしい牛乳を生産している酪農家と、その牛乳をふんだんに使ったスイーツを手がけるパティスリーです。「海の湘南」に勝るとも劣らない「牧場の湘南」には、地産地消への思いが詰まった「おいしい」が待っていました。

■愛情が何倍もおいしくする――片倉牧場

 

 

 

 

 

海の有名な湘南エリア。そこで酪農を営む方がいると知り、お邪魔したのが片倉牧場です。平塚駅から車を15分ほど走らせると住宅街がいきなり途切れ、あたり一面に農地が広がるエリアが見えてきます。ここで、牧場主の片倉さんは約80頭の牛と牧草、稲や野菜を育てています。

片倉牧場の牛たちは皆人馴れしていて、取材班が牧場に入っても全く驚きません。それどころか柵に寄ってきてくれる子も。普段から牧場の方々が優しく接していることがわかります。

 

 

 

 

牧場の中でもひときわ目をひくのは、見慣れない茶色い牛。「ジャージー」という種類で、日本で一般的な白黒の牛、「ホルスタイン」と比べると一頭あたりから搾れるお乳の量は少ないものの、脂肪分が多いクリーミーな牛乳がとれるそうです。

通常牧場で搾られた生乳は牛乳工場に運ばれてスーパーで販売されているようなパック牛乳になりますが、片倉牧場ではこのジャージー牛に牧場で作った飼料を与えて育て、地域の観光施設やケーキ屋さんにも出荷しています。最近では、自身の畑で作った野菜も販売しているそう。先行きの暗い酪農業にある中で、自分たちから発信を行うことで片倉牧場を知ってくれたら嬉しい、と片倉さんは語ります。

 

 

 

 

 

「片倉さんが考える、おいしい、とは?」という問いに片倉さんは、「作ったひとの思いがつまっているものはおいしい」と答えてくれました。それはきっと、育てるものにかける愛情やこだわりが食べ物を何倍もおいしくするということを片倉さんが身をもって知っているからゆえの言葉なのでしょう。

変わりゆく景気や状況の中で、どんなときでもいのちを繋いでいかねばならない酪農。そんな不確かな足もとでも、これからも、片倉さんは明るく「おいしい」を作り続けていきます。

 

 

■挑むのは、地産地消のお菓子作り――パティスリー&カフェドミネジョワ石田時光さん

JR平塚駅西口から徒歩5分。昔懐かしさ感じる商店も多く立ち並ぶプラザロードに、その店はあります。パティスリー&カフェドミネジョワ。今回僕たちおいしいかながわ探検隊は、神奈川県で採れる食材を使ってお菓子作りに挑み続ける、ドミネジョワのパティシエ石田時光さんに話を伺いました。

お店に入ると、さっそく厨房の奥から出迎えてくれた、少し照れ臭そうに、にっこりする石田さん。幼少期、テレビ番組「料理の鉄人」に夢中になり、憧れた料理の世界。食に携わりたい気持ちをそのままに、大学は農学部を選びます。石田さんはそこで、野菜の無農薬栽培体験をし、その難しさを、身をもって感じたといいます。

 

 

 

 

「農薬を使うことで野菜を生産するコストは各段に抑えられるけれど、酪農は違う。機械があっても、動物の世話は絶対に人がやらなければならない。それなのに、乳価は、見合った対価になっていないじゃないですか。」と話す石田さん。

ドミネジョワのほとんどのお菓子は、そんな石田さん自身の大学時代の経験や、食材を作るうえで感じた思いを糧にして、神奈川県の地元食材を中心に作られています。

そうして誕生した「湘南ジャージープリン」は、同じ平塚市内の「片倉牧場」で育てられたジャージー牛から採れたジャージー乳がふんだんに使われており、とても濃厚でミルキーな味わいでした。

 

 

 

 

 

大学を卒業後、お菓子屋さんに勤め、その後日本料理店で修業をした石田さん。それぞれ異なる環境で修業の中で形成されたお菓子への思いや、食材を作る生産者への思い、それを食べる消費者への思い、その全てがドミネジョワのスイーツに詰まっています。

そこで最後、石田さんに、「おいしいかながわ探検隊」らしく「石田さんにとっての『おいしい』とはなんですか」と尋ねると、「“おいしい”は、自分が美味しいと思ったものが一番『おいしい』と思います」と答えてくれました。

「例えば、同じものを二人が食べても、片方は美味しいと感じることもあれば、もう片方が不味いと感じることもある。味覚は成長し続けるので、経験によっても感じ方が変わってくると思いますし。でも『体にもおいしい』は割と大事だと思います。食べることは、生きることにおいて必要不可欠なことですからね」と続けて石田さんは語ります。

常に誰かのためを思いながら作られた優しいスイーツが、ここ平塚のドミネジョワにはありました。

 

 

 

 

 

■それぞれの「おいしい」とは

片倉さんの思う「おいしい」とは、「作った人の思いが込もっているもの」であると教えて下さいました。そう言う片倉さんは、セロリの自家栽培を始めた際に、自分の育てたセロリが愛おしく感じてセロリ畑で眠ったこともあるそう!

自然のものを扱う難しさや経済状況の厳しさの中でも、加工に向いたジャージー牛乳を主に生産するようにしたり、自給飼料を取り扱ったりするなど、さまざまな「人とは違うこと」で、片倉牧場はチャレンジングな酪農を続けています。

 

 

 

 

 

一方、ドミネジョワの石田さんは、地元食材を使ったお菓子作りを追求していました。その変化への恐れの無さから「石田さんのおいしいに対する考えって“諸行無常”の考え方に通ずるものがありますよね!」と感心していたら、実家はお寺だということで一同も納得。

石田さんは一度平塚の地を離れたからこそ、平塚だけでも様々な食材を生産しているという地元の魅力に気付いたといいます。そしてそれを活かすと言う気概も、ほぼ牛乳で出来ている湘南ジャージープリンとくずジュレジャージーミルクから存分に感じられました。

舌にも、そして体にもおいしいお菓子を作ることに関して、「やれることはなんでもやりたい」と瞳を輝かせて言う石田さんの営むドミネジョワ。これから更にどこまで湘南の「おいしい」の可能性を見せてくれるか、是非楽しみにしていたいと思います。

 

 

 

 

 

今回の取材でまず感じたのは、お二方の「よりおいしいものを」という「おいしい」への追究力の高さでした。

改めて、物価高騰やコロナ禍など一筋縄ではいかないこともある中でも、おいしいものを作って届けるという生産者の方々の心意気を感じると、普段から何気なく食べているものが特別においしく感じる気がしたので、生産者の方々の声を聞くことが「おいしい」への一歩なのだろうと思いました。

(つづく)

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