温暖な気候のもと、山と海、湖、温泉、里山、そして賑わいの街――すべてがそろう神奈川県には、おいしいものがたくさんあります。全国区で名を馳せるものも数多くありますが、意外に知られていない名品もたくさん。そこで、神奈川新聞社や神奈川県観光協会のネットワークを駆使して、あらためて「おいしいかながわ」を探検することにしました。エリアごとにご紹介していきます。
<秦野編>
県中央部、丹沢山系の麓に広がる秦野。水が豊かな地域として知られ、温暖で霜が降りることも少なく、年間を通して多種多彩な野菜や果物が栽培されています。
落花生農家
高橋農園
秦野ならではの風味豊かな落花生
秦野の落花生は、神奈川県内でシェア1位を誇ります。その理由は、土の良さ。もともと富士山の火山灰が堆積した秦野盆地の土壌は、落花生栽培に好適だったのです。はじめは、たばこ栽培の輪作として明治から昭和にかけて盛んに栽培されました。その後も、たばこの生産が減少するのと反比例して耕作面積が増え、秦野を代表する作物の一つとなったのです。落花生といえば千葉県が大産地ですが、秦野の落花生の独特の風味と旨味も負けていません。「本当においしいですよ」と、秦野市西大竹の生産農家、高橋農園の高橋勇太さんは語ります。
突然の就農だったが
高橋さんの家は代々農業を営んできました。たばこと落花生が中心だったそうですが、勇太さんが生まれる頃には、たばこ栽培はもうしていなかったとか。メインが落花生で、他に、キャベツやカボチャなどの露地野菜をつくっていたそうです。実は、勇太さんは、当初農業を継ぐとはっきり決めていたわけではなく、宅地建物取引士の資格も取って、不動産関係の会社に勤めていました。しかしお父様が体調を崩したことから家業の農業に復帰、1年間は独学で営農、その後は神奈川県の農業アカデミー・野菜コースに進んで、改めて基礎から学びました。今は2反(600坪)の落花生をメインに白菜やタマネギなども栽培しています。
手間はかかっても収穫の喜びは格別
丁寧に土の準備をして、いよいよ落花生の種を蒔くのは5月。そこから、10月の収穫に向けて栽培が始まります。落花生は比較的手間が掛からない作物といわれますが、栽培期間が半年ほどと長く、また、真夏の雑草の処理はとても大変だそうです。「夏は雑草の勢いがすごいので、非常に苦労しますね。しかし、機械で一気に除草できるわけでもなく、手仕事でコツコツやっていくしかありません。根気のいる仕事です。でも、何でも同じでしょうが、手間が掛かるからこそ収穫の喜びは大きい。よく育ってくれたねと、感謝の気持ちもわいてきます。農業ならではの手応えといえるかもしれませんね」。
落花生をもっと身近に感じてほしい
高橋さんは、子供たちを集めた落花生の収穫体験学習などの機会も積極的に設けてきました。そのときは、栽培の過程や苦労なども説明してからみんなで作業。普段、店頭や家庭で、食べられる状態になったものしか見たことのない子供たちは、土から掘り出す収穫作業に大興奮。作物がどのように育まれるのかを改めて知る機会になりました。「これからは農家と消費者がもっと近づいていかなければならないと思います。落花生の収穫はそのためにはいい機会ではないでしょうか。秦野という土地を改めて知るきっかけにもなると思います」と高橋さん。ただ農作物を作るだけでなく、農業を通して秦野の魅力を伝えていきたいと考えています。
秦野市 高橋農園